イエアナ

どれだけ強い家を建てても水害には無力

近年夏になると地球温暖化の影響なのか恐ろしいくらいの降雨量で雨が降ることが増えてきました。
数十年に一度の災害が毎年起きています。
それはもはや数十年に一度の災害とは呼ばないよね、という意見はさておき。

「町」にはカバーできる降雨量が決まっています。想定した降雨量までは色んな対策をして耐えれるようにしましょう、という具合です。
その想定降雨量を毎年超えてくるのです。
想定降雨量を超える、イコール水害なのです。
この想定降雨量はある期間で区切った最大の降雨量を考慮して基準としているのですが、年々ゲリラ豪雨と称される大量の雨が降っているところを見ると徐々に見直しが必要なんだろうと思います。

水害・洪水は河川氾濫だけじゃない

雨水は下水として処理されます。
雨水はその処理方式により下水管を通り下水処理場もしくは河川へと流れていきますが
どちらも最終は海や河川に行き着きます。

雨水は海や河川に行き着く前にさまざまな設備を通ります。
側溝を通り、貯水池を通り、暗渠を通り、処理場を通り管を通ってゆきます。
そのそれぞれの設備にも水を保てる容量の限界が存在します。
管の容量、途中で水を貯める場所の容量、下水処理場の容量、とそれぞれにキャパがあります。
そのキャパを越えると水がどんどん溜まっていくか最悪の場合逆流します。

テレビなどで雨水ますから水がポンプで放出されているかのように溢れ出してくる、あれです。

一般的には河川の堤防が切れたり水位がそれより上がったりして洪水が起こるイメージがありますが、下水処理のキャパを越えることで簡単に洪水状態となるのです。
いわゆる「内水氾濫」と呼ばれるものです。

分離式の方がいいわけではない

家と浸水被害について考える前に、下水の処理について少し知識を得ましょう。

下水には「汚水」と「雨水」がありそれらの処理を同時に行うか、別々に行うかによってパターンがあります。
「汚水」とは家庭などから排水されるものですね。

雨水と汚水を一つの管に入れてそのまま下水処理場へと送る形式を「合流式」と呼びます。

一方、雨水はそのまま雨水専用の管に流してそのまま河川に流し、汚水のみを汚水専用の管に流して下水処理場へ送る形式を「分流式」と言います。

通常の処理においてはそれぞれ一長一短でどちらかが優れている点もあれば劣っている点もあります。

大雨、豪雨が降ったとき、どちらの下水処理方式が都合がいいのでしょうか。

下水が処理できなくなって家が浸水するくらい水がたまったとき、分流式の方がいいよね、という意見はありますがほとんどの場合無意味な意見です。

合流式の場合確かに汚水(トイレとかの!)と混ざった雨水が町に溢れかえるわけですが、一方で分流式で雨水だけを流す雨水管があふれた場合だって浸水してしまえば家庭のトイレと直結するのです。
(便器より水位が上がった状態を想像してみてください)
無意味ですよね。

その混ざった水がさらに河川へと流れようと町の中を駆け巡るのです。

内水氾濫、外水氾濫、はたまた下水が合流式、分離式に関わらず、水害によって街に溢れ出す水は往往に汚いものなのです。

家が浸水すると何が起こるのか

家が浸水すると家の価値はほぼ無くなります。一度水に浸かってしまうと、基礎部分の完全な排水は非常に難しく、
完全に乾燥させるには床を取り外した上で長い時間をかけて自然乾燥させるしか方法はありません。その間にも雨は降りますので非常に困難な作業と言えるでしょう。
特に木造の場合は癒えることのない大きな傷を負うことになります。

木は水に浸かることを想定してはいません。
例え水害における水がきれいであろうとなかろうと家がダメージを受けることに違いはありません。

また、浸水してしまったけど床下浸水だから助かった、というのは甘い意見です。
少なくとも基礎の土台部分より上は木造の場合、木で構成されているので長く水に浸かれば浸かるほど腐食への道筋をつけてしまうことになります。
見えない部分が気づかないうちに腐り始める、という意味ではこちらの方が恐ろしいかもしれません。

ただ床上浸水に比べて床下浸水の場合は住居部分に見た目でわかるわけではないので、褒められたことではないですが、家を売るときの評価は床下浸水の場合の方が高いのかもしれません。

床上浸水の場合は見た目にも衛生的にもほぼ回復不可能なくらいのダメージを食らいます。

水害と臭い

また見落としがちなのはその臭(にお)いです。
浸水してくる水はきれいではありません。汚れていて何より臭いのです。
この水に浸かってしまうと排水に成功したとしてもきちんと洗浄という工程まで行わないと臭いがこびりついて取れないまま、ということになるでしょう。

恐ろしいのは「その臭い」が「その家庭の臭い」と同化してしまうことです。
臭いは慣れてしまうものです。臭いを放置してしまうとそこに住む人は自分では気づかないレベルまで慣れてしまうのです。
衣服について、体について周り、知らず知らずのうちに他人を不快にしてしまう、なんてことになりかねません。
臭いに関しては他人が指摘してくれることはまずないので、永遠に自分が気づかないまま悪臭を振りまいて生きてゆく、ということもあり得るのです。

水害と虫

さらに見落としがちなのが「虫の発生」です。
羽虫や蚊の類は幼生時には水の中で過ごします。卵を水中に産むのです。
夏になると蚊が飛んできますが、あれどこから来てるんだろう、と考えたことはありませんか。
蚊はちょっとした水たまりやバケツに溜められた雨水など水があるところにすきあらば卵を産むのです。
家が水に浸かってしまった場合、知らないところに水が溜まったままとなったとき、その場所が虫の生態系の一部となってしまうことがあります。

なぜか夏になると変な虫が湧く、どこからかいつも蚊が飛んでいる、という状態になってしまうのです。
そのうち大量発生して木の中に巣を作ったり食べたりしはじめるような虫が湧くこともあり得るのです。

いくら家が強くても水害は防ぎようがない

台風で屋根が飛べば補修すればいいですし、地震で家財が壊れたら買い直せばいいですが、水害はその後の長い修復作業を含めてもかなり恐ろしいものである、とお分かりいただけたと思います。

家に恐ろしいほどのダメージを受ける水害ですが、これって防ぐことができるんでしょうか?

実は最近の特別な工法を持った家に浸水を防ぐことができるものがあります。
実際は二次的な副産物として、というものがほぼ全てですが。

基礎部分に空間がない工法の場合、物理的にこの基礎の部分に浸水することが不可能です。
それゆえ浸水被害のない家として売り出しているものがあります。
実際には床下浸水のない家、という意味ですが。

水害が起こるとき、外水・内水氾濫にかかわらず「今回は床下で行こう」「いややっぱり床上浸水で」なんて誰かがコントロールしているわけではないですよね。

あくまでも一定の高さ閾値を超えなければ浸水は起こりませんというものです。
水害が起こらないわけではありません。

浸水被害が起こりそうなとき土嚢(どのう)を積みますよね。
事前に洪水がわかっていたとしても各家庭でできることは実はそれくらいしかないのです。土嚢も積んだとしても数十センチの高さが限界です。この高さを超えるとなす術はありません。

基礎部分に空間がない家は土嚢を積むくらいの高さの水被害に対しては強い、くらいのイメージに留めておくべきでしょう。

ただ土嚢なんて常備してませんし、用意するのも一苦労です。
また災害というのは大抵突然起こるものなので土嚢積むから別に基礎は普通でいい、
という意見に対抗できるわけではありませんが。

今現在、完全に浸水被害を防げます、と謳った家がないことが物語るように
どれだけの性能を持った家であっても浸水に対しては無力なのです。
耐震等級は役に立ちませんし、ましてや断熱性能が水と戦ってくれるわけではないのです。

地下室はもはや要らない

大雨洪水が想定されるこの時代においては地下室は大きな負債となりえます。
周辺より一段低いところに穴を開けるわけですから当然全ての水が集中します。
床上浸水や床下浸水などそのレベルに関わらず、開口部に水が到達した時点で全ての水が流れ込もうとするのです。

何より大変なのが「排水」です。
地下室は文字通り居室であるわけなので大きな空間があり、周りは地面に囲まれているのです。
氾濫がおさまったとしても地下室に溜まった水はどこにも行けないため完全に自力で排水する必要があります。
その空間の大きさからバケツなんかで汲み出すことはほぼ不可能です。
業務用の排水ポンプでないとまず不可能です。
また基礎部分の排水と同じく、乾燥させることは非常に困難な上、浸水部分が基礎程度と違い大きな面積を占めるために家全体の腐食へとつながってしまうのです。
水害が起こりえない、という場所に限って地下室を設けるべきです。

水害を防ぐただ一つの方法

被害を防ぐ方法は一つしかありません。
ハザードマップを見ることです。
ハザードマップを確認し、想定される被害の場所に家を建てないことです。
それ以外に方法はありません。

ただ確認するのではなく「きちんと見る」

重要なのは「きちんと見る」ということです。
ハザードマップを見てもらうとよくわかるのですが、同じ地域でも被害が想定される場所と被害がなさそうな場所がまだら模様さながら色分けされています。

周りは被害想定ではないのに
ピンポイントで被害が起きそうな場所が指定されてたりもしますし、その逆もあるのです。

近くに川がないから大丈夫、内水氾濫は防ぎようがないから仕方ない、ではありません。
川が無くても内水氾濫が起きた時どの場所に水が溜まりやすいのか、などが細かく予想されているのです。

水は重力にしたがって高いところから低いところに流れます。住宅地は平坦ではありません。少しでも低いところがあればそこに向かって流れて水がたまるのです。
逆に周辺より少し高いだけで水がやってこないこともよくあります。
これらの微妙な高低差をもとに被害地域が想定されているのです。

内水氾濫が起きたけど一軒隣は浸水せず、自分のところだけ浸水した、なんてことは本当に普通の話なのです。

この微妙な高低差は見た目ではわかりません。そういうものを確認するのがハザードマップなのです。

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